3.地方の知財を都会にライセンス

特許事務所である私の事務所に、宮崎市内の発明家浜元氏が特許公報を持ってやってきた。この特許は、自転車のギアに関する特許である。同氏は、大手自転車製造会社に特許公報を送ったが、特許を事業として採用されるには至らなかったので、何か手がないかということである。

しかし、その後、10年近く、浜元氏の努力と私の僅かながらの支援で、都内の大手小売企業との特許ライセンス提携が始まり、今ではイオングループの各店舗で、その商品が販売されている。電気を使わないで推進力が得られる「FreePower」という商品である。

これは、地方のアイデアが都会の企業に買われた知財マッチングの事例であり、私はこの状況を、地方から都会へのアイデアの「輸出」と呼んでいる。

一方、現在、知財マッチングとして「川崎モデル」という手法がある。これは、川崎市の上場企業、例えば、富士通等の大手上場企業が使用しない休眠特許を、中小企業にライセンスするマッチングである。これは、都会のアイデアが地方の企業に買われる事例であり、私のこの状況を、地方にとって、都会からのアイデアの「輸入」と呼んでいる。この川崎モデルは、宮崎県や信用金庫等が採用し、北海道、福岡等の中小企業で成果が報告されている。確かに、アイデアの輸入でも一定の成果は得られるのであるが、本来的には、地方はアイデアの「輸出」に力を入れるべきではないだろうか。つまり、地方の知を都会に許諾(ライセンス)して使わせる。筆者の経験から、都会よりも地方の方が、核心をついたアイデアが浮かびやすい分野も多いのではないかと考えている。というのは、革新的な発想は、会議室よりも、現場で起こる場合も多いからである。畜産の発明をIoTで遠隔で支援するといった発明や、ドローンで農業を支援する発明のヒアリングを筆者は経験があるが、都会の高層ビルの会議室でアイデア出しをするよりも、牛の表情が見える牛舎や、稲穂の状況が確認できる田畑の現場で生まれるアイデアのほうが、机上の空論ではない、価値のあるアイデアが出やすい。地方ならではの特徴を活かしたアイデアを、都会にライセンスするという発想は、決して夢ではない。

浜元氏は、社会保険労務士の士業を営む方で、自転車の素人でしたが、私は彼がデッサンした美しい自転車のギアが書かれた図面を何枚も拝見した。この発想は世界で自分しかいない、この自転車は世界中で求められており、自分が商品化する、そういった強い想いが、成功を導いたと言える。

オープン・イノベーションの時代と言われて久しい。これは、組織の外部から技術やアイデアを積極的に用いて、市場に応えるサービスや商品を提供していくことであるが、中小零細企業に、オープン・イノベーションは必要ですか?という質問をされたことがある。むしろ、逆で、中小零細企業こそ、アイデア創造、製造、販路開拓と全てを一社で行うことはできないのであるから、本来的にオープン・イノベーションの生態系であると言える。つまり、時代は、中小零細企業の時代である。ここで、アイデア、知の創出は、原料仕入れ等の経費を必要としない。地方でも充分、戦える強力なツールなのである。まずはゆっくり休んで、ご自身がワクワクする発明を週末にでも考えてみではいかがだろうか?

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