11 師匠と弟子の商標戦争

 私は関東育ちであるので、宮崎に来て食した「腰のないうどん」を当初理解できず、なぜ宮崎県人がこれを好きなのか疑問に思っていた。しかしある夜、焼肉を食べた後の次の日の朝、若干、胃が持たれている状態で、柔らかいうどんを食べた際、胃に優しく、その繊細さにファンになり、今ではすっかり「柔らかいうどん派」になった。

 宮崎でも美味しく特徴的なうどん店、ラーメン店、焼肉店、チキン南蛮店等があるが、これらの店は、有名であるが故に商標の問題がしばしば起こる。店を始めた師匠が店名や商品名で商標を取らずに、弟子が商標を取得してしまうケースである。師匠と弟子は当初は仲良く、調理方法を師匠から習得する。しかし、次第に弟子は師匠から学ぶことがなくなり、独立していく。この際に、師匠に内緒で弟子が商標を取得し、独立した店舗で師匠の店名や商品名を使用する。師匠は、自身の腕が全てで、店名にこだわることがなく、商標権の費用が無駄と考えて商標出願しないことが多い。これに対して、弟子は、店名を正式に継いだ継承者となるために、その店名を使いたがる。弊所にも、実はこの弟子に当たる立場の方から商標出願の依頼をされることもあり、どうすればよいか迷う場合があった。結局、判断ができず商標出願をしなかった。このような事態にならないように、本家である師匠にはぜひとも、自身で商標登録を行っていただきたい。自身が本家であることを商標権の所有者で示して欲しい。正当な承継を弟子に行うのであれば、商標権を弟子に譲渡すればよい。

 商標法では、このような場合、師匠は弟子が商標を出願する前から、先に商標の名称を使用していたため、先使用権という権利が認められ、師匠は使用することができるという権利を決めている。これは、この師匠の店名等が多くの人に知られていて周知であれば、弟子による商標権の権利行使は免れ得る。しかし、これは裁判上、師匠と弟子が争った際に認められる抗弁の話であり、商標の権利としては弟子に帰属してしまう。師匠の立場は弱いと言わざるを得ない。師匠は商標出願12,000円を惜しまず出願をすべきであろう。

 それでは、仮に、商標権を行使されて店名を変えざるを得ない場合、どうやって損失を最小限にすればよいか。店の名前が変わるので、ネット検索で同じ店と認識されにくくなる。宮崎の老舗ホテルは、ある時に商標権の問題があり名前を変更した。この際に、3周年記念のイベントと一緒にホテルの名称を変更したため、名称変更が顧客のイメージダウンを落とさず成功している。

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