7 地方企業のよくある商標の失敗

自社の大事な商品やサービスは商標登録をしなくてはならない。ここまではご存じの方も多いであろう。近年、商標登録の数は増加しており、2020年で200万近くの言葉が商標登録されていると言われている。これは、広辞苑8冊分に相当する量の言葉であり、これだけの言葉が、商売で自由に使えない言葉として登録されている。新店舗や新商品のネーミングは注意して選択しなくてはならない。

8年ほど前、宮崎市で開店したばかりの整骨院「コリトレルン」(仮名)に、一通の内容証明郵便が届いた。

「貴社の行為は、当社の商標権を無断で使用しており、当社の利益を害する。即刻、その店名・サービス名の使用を中止するとともに、当社の損害に対する賠償に応じる必要が・・・」郵便送付元は、東京赤坂の法律事務所である。

私は、このように都会の商標権者が、地方の無商標権者に対する商標権の権利行使を多く見てきた。この整骨院の代表は、慌てず我々に連絡をしたので、大事には至らず、即時に名称変更をすることで、賠償金がなく解決された。しかし、新規で制作した看板やパンフレット、Webページはネーミング変更の費用がかかった。

 東京の商標権者が、宮崎市のような地方の中小事業者に商標権の権利行使をすることは、以前はそれほど多くなかった。なぜならば、商標権者が商標を遠方で使用されていることに気が付かないからである。しかし、現在は、インターネットで自身の商標を言葉として検索できるため、宮崎のような地方であっても、直ぐに商標権者が気付く。

 本件では、商標権者も同じく整骨院を東京で営んでおり、ここの患者から「最近、宮崎で店舗を開かれたのですか?ネットで「コリトレルン」を検索したら宮崎市に整骨院の店舗がありましたよ」との患者からの指摘により宮崎市での使用が発覚したのである。

 商標の問題というと中国を想起すると思うが、これは日本の著名な名称について中国で商標権を予め取得しておき、この著名な名称を正当な権利者が中国で使用したときに、商標権者が商標を高額に買い取らせるという問題である。

 一方本件、整骨院の場合は、このような悪意のあるケースとは言えず、商標権者の立場から考えれば、宮崎市の整骨院が仮に質の良くないサービスを行った場合に、自社の整骨院の名称「コリトレルン」の評判が落ちることを恐れる。これは商標の希釈化と呼ばれるが、これを恐れるために、内容証明郵便を送り使用を差し止めるのである。

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