14 地方都市(宮崎)の起業の可能性

 私が12年前に宮崎に来て感じたことは、宮崎県は地方でありながら、多くの知的なアイデアが日々生まれているということだ。例えば、スマート農業、畜産、林業のような分野の発明については、現場をあまり知らない都会の会議室で生まれるのではなく、農業等の現場でこそ豊かなアイデア生まれる。まさしく宮崎はこの現場があり、アイデアが溢れる土壌があるのだ。しかし、なぜ新しいアイデアに基づく経済的な豊かさが充分ではないのか。それは、我々、知財関係者の責任も無視できないのではないかと考えている。

 高尾雅仁さんは、株式会社高尾薬舗の代表で宮崎市内に5店舗を構える薬剤師だ。彼は、服用すると身体が温まる生姜を含んだ成分の錠剤を開発した。しかし、この成分は古来から知られている漢方薬と類似しており、特許が取得できるのか高尾氏は悩んでいた。特許は、新規性という新しさがないと取得ができず、古来の漢方薬を説明する文献に記載があると新規性が拒まれて特許を取得できないからである。しかし、高尾氏は、この錠剤の新規開発のためコストもかけており、是非とも特許を取得したい。そこで、高尾氏は、この錠剤は、古来より身体を温めることは知られているが、血流改善剤としては知られていないのでは、と気がついた。また、古来から知られているのは、この成分で定性的に温かくなることが知られており、定量的なデータ(薬剤の配合割合)などは知られていない。そこで、高尾氏はこの薬剤を血流改善剤として薬剤の配合割合とともに、特許を取得することができた(特許第6940288号)。

 私は、このとき、我々知財専門家が、この発明を聞いたときに、古来の漢方薬と同じものであるから特許は取得できないと決めつけて処理をしたら致命的になると感じた。つまり、高尾氏の発明は、古来の漢方薬に基づいて、新たな用途(血流改善)とノウハウ(配合割合)にあり、そこをフォーカスすれば充分、特許を取れる。もちろん、特許だけで経済的に高尾氏が成功できるかは別問題であるが、特許の効果である、同じ成分を他社が20年間真似できないことの経済的効果は小さいとは言えないのではないのだろうか。

 発明のような知は、繊細な分岐を経て、社会に徐々に浸透していく。知的財産に関わる者は、この繊細な知をピンセットで分けていくミクロな目が必要であるといえよう。私自身も心がけなくてはいけない。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です